ペーストの塑性と亀裂進展
狐崎 創 氏(奈良女子大学大学院人間文化研究科)
粉体と水を混ぜたペーストは 乾燥とともに液体的な状態から固体的な状態に変化し、 その乾燥過程でしばしば亀裂を生じる。 薄いペースト層を一様に乾燥させた際にできるセル状の mud crack pattern は 日常至るところに観察できる。 これは含水量の減少とともにペースト内部応力が徐々に増加した結果であるが、 実験で調べてみると 亀裂は粒子間隙がまだ水でほぼ満たされている capillary 状態で発生し、 一般に非常にゆっくり成長する。 特に、破壊時の応力はほぼ一定値であるのに、 亀裂の成長速度が乾燥速度に非線形に依存するという特徴がある (J. Phys. Soc. Jpn., 78 (2009) 064801)。 このようなペースト特有の亀裂成長は、 亀裂発生の原因としての負の間隙水圧とペーストの塑性緩和を考慮すると説明できる。 セミナーでは実験の結果を簡単に紹介し、数理モデルとその解析を報告し議論したい。
AdS/CFT対応とその流体力学への応用
中村 真 氏(京大理)
AdS/CFT対応とは、 強く相互作用する量子ゲージ理論と高次元古典重力理論をつなぐ対応関係である。 この対応は、超弦理論の枠組みから提唱され、 ある種のゲージ理論の物理量が 重力理論(一般相対性理論)を用いて計算可能であることを主張する。 強く相互作用するゲージ粒子の多体系は相対論的流体力学に従うため、 この対応を用いると 相対論的流体力学を一般相対性理論にmapすることが可能になる。 具体的には高次元ブラックホールの力学を調べることで、 対応するゲージ理論流体の振る舞いを理論的に記述できると考えられている。 本セミナーでは、 AdS/CFT対応の基本的主張やアイディアを非専門家向けに解説し、 あわせて流体力学への応用可能性を探ってみたい。
ガラス転移のモード結合理論とその拡張
鄭 誠虎 氏(分子研)
モード結合理論は、ガラス転移の問題にチャレンジして、 部分的にしろ成功した唯一の統計力学理論として注目されている。 と同時に、理論に深刻な欠点があることも知られている。 本セミナーにおいては、この欠点の解決に向けた 最近の研究について紹介する。
上記の一連のセミナーは、科研費プロジェクト
「塑性流動の新理論に向けての統計力学と流体力学のコラボレーション」の
一環として実施したものです。
2011年度のコラボセミナー情報はこちら。